春巻き定食

枯れゆく花に口づけを

 そうして、花は枯れてしまったのでした。    ◇    花瓶にさした花は、当初の色合いが褪せ、ずいぶんとくすんだ色になっている。もうそろそろお別れのときだろう。ささやかで、しかしはっきりとしたピンク色は部屋を明るく彩ってくれていた。目に入るたび、思い出ごとよみがえり、心が満たされる。    あれは、いつだったか。秋も終わりかけ、朝晩の冷えがからだに堪えるようになってきた、そんな夜。見るからに疲れた顔をしていたのだろう。帰宅すると、小ぶりな花瓶に花が生けてあった。鮮やかな黄色に元気をもらった。  聞いてみると、花屋の軒先に並んだその色に目を惹かれ、気付いたら手に取っていたらしい。その姿を想像して、思わず口元が緩む。仕事で忙しそうなわたしのことを思い浮かべてくれただけで嬉しい。そう伝えると、彼は少し照れくさそうに笑った。  あれから、季節に合わせた花が飾られるのが恒例となった。日々の小さな楽しみ。気付けば、次はどんな花だろうか、と心を浮き立たせながら扉を開く自分がいた。そんなわたしの姿を見つめる彼の目には喜びが映っていて、それをこっそり捉えるのも愛しい時間だった。 「ナマエ、おかえり」 「ただいま」  廊下に続く扉のほうに振り向き、彼の姿に安心する。玄関まで出迎えに来ないのは珍しいと思ったが、書斎にこもっていたのだろう。おつかれさま、といつも通り整えられた金髪に手を伸ばし、そっと触れる。——というのも、彼が察して屈んでくれるからできることだけど。 「好きだな、それ」  少し呆れた顔をしながら、毎度律儀に屈んでくれるところが甘いなあと思う。 「今日はクラムチャウダー?」 「好きだろ?」 「敬一のが一番おいしい」  そう言いながら、キッチンに向かう彼の背中に軽く触れた。    料理を温めてもらっている間にテーブルをセッティングしておこうと近づくと、小さな落としものが目に入った。  色の抜けた花びら。  花びらをテーブルの上から取り除き、カトラリーを並べる。花はどこかさみしそうだ。ほんの少しの、彩ってくれた時間を振り返る。これまでのどの花も、優しさが詰まっていて、毎度名残惜しい。  セッティングが終わると、そっと花瓶から花を手に取る。その小さな動きで、またいくつかの花びらが落ちていった。もう最期のときが近いみたいだ。  そのまま、枯れかけの花にそっと口づけする。 「さようならか?」  料理を運び終わった彼が隣に立つ。ほんの少しあたたかい。 「うん」  それ以上は言わず、彼の手を取る。口元に寄せ、軽く唇を当てた。  まだ見ぬ新たな優しさに向けて。    

お題をお借りしました:太陽を貫くさま

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